藤間紫苑 Fujima Shion

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百合小説
愛こそすべて
第一話 出会い 第二話 新しい生活 第三話 初めてのキス
第四話 美味しい紅茶 第五話 束縛 第六話小さな貴婦人

第三話 初めてのキス
 今日登校したばかりの聖マリア学園。広大な森に囲まれた学校の、長い長い車道で私はキスをしていた。お母様とお父様は外国に渡ってしまい、初めての自立した生活が始まるこの春。校長先生は優しそうで、同室の女の子達も親切で、楽しい学園生活が始まるだろうと思ってわくわくしていた私。そしてお母様と別れて、森の中で泣いていた私。
 唇が重なっている。
 私より明らかに10センチ以上も背が高い、まるで貴公子みたいな女性と、私は今、キスをしている。他人の唇は思った以上に柔らかく、そして彼女からは不思議な香りがした。誘うような攻撃性と、包み込むような甘さ。私の腰に回された彼女の腕によって、私の体は彼女の熱い体に包み込まれてしまっている。
 唇が重なっている。
 これって現実なのよね? と私は思った。きっと世の女性達ならこういう時に、ロマンチックな曲が頭の中で流れているのだと思った。宝塚とか、流行のポップスとか。しかし私の頭の中で流れたのは『キテレツ大百科』の「はじめてのチュウ」だった。
 夢の中にも出てこないようなカッコイイ美少女が、私にキスしている。そんなアリエナイ状況で私はパニックを起こしていたのだと思う。そうでなければアリエナイ! 初めてのキスの時、頭の中で「はじめてのチュウ」が流れるなんて!
 私は少し苦しくなって、彼女から離れようとした。しかし彼女は右手で私の頭を押さえ、動かないように押え付けた。彼女の鼻から柔らかい息が漏れ、私の唇に触れる。ああ、そうか、鼻で息をすればいいのか。私はそう思って鼻で息をした。
 熱い。
 情熱的という言葉があるが、今までの私はその本当の意味を知らなかったのだと思う。スペインのフラメンコを見たり、『椿姫』とかを読んで、ただ“情熱”というイメージを楽しんでいただけなのだと思った。私は三次元の人と恋をする話を、友達とした事がなかった。憧れる俳優とか、大好きな声優とか、萌える美少女とか、眼鏡男子とか。大好きなキャラが死んだ時は泣いた。追悼本をコミケで売ったり、追悼イベントに出て、声優を見てまた泣いたり。恋をするというのはそういう事で、情熱とは萌えだと思っていた。
 熱い。
 彼女の体は熱かった。私に触れている腰や頭や、胸や胴体や、そして唇から熱が伝わってきた。鼓動が、彼女の鼓動が伝わってくる。私の体も熱くなっていく。鼓動がリンクして、どんどん早くなっていく。
 私達は立ち止まっていた。深い森に囲まれた静かな道の端で、立ち止まっていた。それなのに体はどんどん熱くなっていった。鼓動はますます早くなっていった。萌えというのは私が鑑賞する存在で、私に干渉する存在ではなかった。そんな私に彼女はキスをしていた。
 とくん、とくん、と鳴る鼓動が大きくなって、体が震えているかのように感じた。彼女にも私の鼓動は伝わっているのだろうか? きっと伝わっているに違いなかった。彼女の鼓動がこんなにも激しく打っているのを私が感じられるのだ。だから彼女にも私の鼓動の早さが伝わっているに違いない。
 私は恥ずかしかった。初めてのキスをする時は、自分がリードするのだと思っていた。甘くて砂糖菓子のような女の子や、冷たくて氷のような少年と、静かで平穏な恋をして、私がリードしながらデートして、暗い公園でキスをする。静かな恋と、冷めたキス。それからのんびりとデートを重ね、一緒に暮らして。そのような未来像を描いていた。
 森の中でのキス。
 うん、ここまでは公園と近いかもしれない。そう私は思った。ただ違うのは体を押え付けられていることかもしれない。私は人と、これ程長く接していた事がなかった。体と体が重なるだけで、これ程熱いとは知らなかった。雪山で裸になって温めあうというのはあながち嘘ではない気がした。彼女の胸の熱さが私に伝わってくる。彼女の弾力のある胸が、私の胸と重なる。一見、男性のように見えた彼女だが、かなり胸があった。彼女に抱きかかえられ、私はいつしか爪先立ちになっていた。身長は157センチしかないが、そんなに軽い体ではない私を、彼女は枕を抱いているかのような気軽さで持ち上げていた。
 柔らかい風に吹かれた彼女の巻き毛が、私の頬を撫でる。春の風が私達の周りで踊り出す。誰も居ない森の中で、私達はキスをしていた。馬は私達を祝福してくれているのだろうか。恋愛ではないキス。欲望のキス。女同士のキス。萌えではない、体の奥が熱くなるキス。喉が乾くようなキス。
 私は薄っすらと瞼を開いた。貴公子の肌は白くて、顔の彫りが深かった。私は瞼を閉じた。目から入ってきた情報は、現実とは思えなかった。彼女なら相手を選び放題だろう。誰でも彼女を好きになるだろう。何故私は彼女にキスをされているのだろうか。私に何か彼女が気に入る要素があったのだろうか。唇に触れる柔らかさ、胸から伝わる鼓動、全てが現実の出来事だった。
 どくん。
 胸が苦しい。
 どくん。どくん。
 お腹が熱い。
 どくん。どくん。どくん。
 頭がくらくらする。私はどうしたのだろうか。何か体調が悪くなってきたのだろうか。体が今まで以上に熱くなってきた。頭がぼうっとして、お腹がきゅうっとする。変だ。絶対に変だ。中途半端な体制で立っていたからだろうか。
 私は頭を振ろうと努力した。しかし頭はしっかり押え付けられていて、ぴくりとも動かない。私は彼女の体を押し返すために、彼女の腰に手を置いた。しかし彼女を拒む事が出来なかった。だが体はどんどん異常をきたしていた。下半身が熱い。私は彼女の体を軽く押した。
 彼女が私の頭の後ろに置いていた右手を離した。私は頭が自由になり、ほっとした。しかし次の瞬間、彼女の右手は私の左の乳房を弄び始めた。私の体はビクンっと波打った。
 私の左胸にある彼女の右手。
 この事が何を表しているか、私は知っている。子供向けの小説の多くは、女の子同士の関係がキスだけで終わる。でもそんなのはただのファンタジーだって事ぐらい、私は知っている。隣の席の女の子が、ある子役の女の子と「関係」を持ったんだって。そのような話はいくらでもある。私の親友も、クラブで会った女の子と「寝て」いる。今時、キスだけの関係なんてありえない。そのような話は童貞男の萌えの中にしか存在しないファンタジーだ。女はいつだって、セクシィーな話を求めている。
 でも! 恥ずかしい!
 私の体は彼女が揉むのに合わせて、びくん、びくんと震えていた。私の体はどうしてしまったのだろう。彼女が嫌な訳ではない。なのに変になっている。彼女を拒否している? いや、違う。彼女が嫌い? いや、違う。アイドルのように美しい少女が私を求めている。私の体は突然の出来事に怯えているのだろうか? だからこのように体が震えるのか?
 その時、彼女の唇が離れた。
 瞼を開くと、彼女の漆黒の瞳が私を映していた。なんて美しいのだろう。私の瞳から涙が零れた。分かっている。彼女が私にキスをしたのは、泣いている私を慰めるためなのだ。きっとそうに違いない。森の中で泣いていた私を慰めるためにキスをしたのだ。きっともうない。このような情熱的な瞬間はもうないのだ。私は彼女とキスをした。それは恐らく、お婆ちゃんになっても語り続ける夢の一時だったのだ。
「あっ」
 私の体は彼女の肩に乗せられ、木陰へと運ばれた。大人しい馬は、彼女の跡をちゃんと付いてきた。この馬は私達の情事を、ずっと見ていたのだろう。
 私は木陰へと横にさせられた。これからきっと木陰で先輩と後輩の相談タイムが始まる、と思っていた私は意表を突かれた。
「あ……あの……」
「大丈夫、子猫ちゃん。怖いことはなにも起こらないから」
 そう言いながら彼女は、私の上着のボタンを外し始めた。あっという間に私は上着の前を開かれた。彼女はしげしげと私のブラウスを見つめてから、指でちょんっと突いた。
「ひやぁ」
 ああ、まただ。私の体はビクンっと震えた。おかしい。体の調子が変なのだ。彼女に触れられると熱くなって……そして震えて……。震えて?
「いい。君はとても感度がいいね。こちらが恥ずかしくなる程だ」
 彼女の台詞を聞いて、ますます体が熱くなるのを私は感じた。震える? 感度?
----感度がいい。素晴らしいよ、ひかり。
 私は昔誰かに、同じような事を言われたのを思い出した。だが誰に言われたのか思い出せなかった。
「はうっ」
 彼女は私の胸をゆっくりと揉んだ。全身に広がる痺れ。彼女に触れられる度に、私の足は陸にあがった人魚姫の下半身のように跳ねた。
「ふふ……可愛い子が入ってきたものだ」
 彼女は私の頬を舐め、それからつーっと首筋に舌を這わせた。私は股の辺りが熱くなるのを感じた。
「あ……」
 胸が揉まれる。下から上へとゆっくりと揉まれている。そして乳首が弄られる。その度に体が震える。目の前が涙で曇る。私はどうしてしまったのだろう。
 彼女は私のブラウスのボタンに手を伸ばした。
「や……」
 私は初めて彼女に抵抗した。森の木陰で横になって重なっているだけでも、公然猥褻罪だと思うが、ブラウスまで脱いだら言い訳が聞かなくなってしまう。入学当日に退学という汚名だけは避けたかった。
「ふふ、恥ずかしがり屋さん。君の体はこんなにも俺の事を求めているのに」
 この超貴公子が一人称俺。まぁ、これ程男前なら(いやそう見えているのは私だけかもしれない)、トランスが入るのも当り前かもしれない。私だってなりきりチャットの時は俺と言う事もある。いや、彼女が使う一人称なら、周りの人は全てを認めるだろう。木漏れ日の中で見る彼女の姿は本当に美しかった。
 彼女は私のブラウスの下から手を入れて、私のブラジャーの上をなぞった。彼女の手には魔法が掛かっているかのようだった。私の体の激しい震えは、彼女の手を中心にして末端へと広がっていった。
 私はこのまま彼女に流されてしまうのだろうか。もっと彼女の事が知りたいと私は思った。でも言葉が出ない。私の体は彼女の手によって踊らされ、弾けている。喉からは聞いたことがないような声が漏れている。彼女は微笑みながら、私にキスしている。
「!!」
 彼女の指が、私の乳首に直に触れた。体が弾けそうになった。もう、止めて! もう! 私はいつしかそう叫んでいた。
 彼女は微笑みながら、私を見下ろした。私は涙で濡れた瞳で彼女を見た。彼女はすっと私のブラウスから手を抜いた。もう、もうこれで終わり? 安堵のような、失意のような複雑な気持ちが心に広がった。
 彼女は私の両手首をきゅっと押さえ、私の頭上に持って行った。それから左手でぐっと私の両手首を押さえた。そして右手を再び、私のブラウスの下へと滑らせた。
 私ははっとした。えーっと、これって……もしかして、強姦?!
「あ……あの、何を……」
「何って、押さえているんだよ? 君が暴れないようにね、子猫ちゃん」
 明らかに強姦だった。でも私は拒否をしているのだろうか? 彼女に対して拒否出来る人がこの世にいるのだろうか。甘いマスクに優しい声。どこかの事務所のアイドルだと言われても信じてしまうだろう。そのような彼女が森の中で私を押さえつけて、強姦している。普通は信じられない。それにそもそも私は拒んでいるのだろうか?
 痺れるような感覚。燃えるような股間。汗が体中から流れていた。彼女は私を責める手を、一時も休ませなかった。私のぷにぷにした胸は、別の生き物のように固くなっていた。
 私は何か、訳の分からない声を上げていた。例えこれが強姦であったとしても、見た人は信じられないだろう。私の喉は卑猥な音を出し、彼女を誘っていた。彼女はいつしか私の半ズボンのボタンを外し、ショーツの中に手を滑り込ませていた。
「硬くて大きなクリトリスだね。君は俺に愛撫されるために生まれてきたんだよ」
 もう止めて、もう。私はそんな事を言っていたと思う。しかし言葉とは裏腹に、体は彼女を受け入れていた。私の股間の愛液によって濡れた右手の指を、彼女は私の口の中へと入れた。私の愛液は酸っぱいような不思議な味がした。
 彼女の指が私のクリトリスを摘んだ。頭の中が痺れて、体に衝撃が走った。彼女の指が体の中へと入ってきた。痛みでぴくっと体を震わすと、彼女は手を引っ込めた。そして濡れた私の股間を楽しむように、彼女は手を滑らせていた。彼女の濡れた、柔らかい指がクリトリスに触れる度に、私は悲鳴を上げていた。早くなっていく彼女の指。重なる唇。舐められる首筋。体はぶるぶると振るえ、硬直した。下半身から大波のような快感が湧き上がり、脳へと押し寄せてきた。
 私はその日、初めて絶頂を知った。

「ひかり、起きて」
 ううん、ママ、まだ眠いの。
「ひかりさん、ひかりさん」
 もう少し……もう少し。
 私はそこで目覚めた。辺りは夕闇に包まれ、クラッシックなデザインの街灯が灯っていた。目の前には榊原と小安が立ち、心配そうに私を見つめていた。
「良かった。学校内で迷子になってしまったのじゃないかと、心配したのよ」
 榊原がほっと溜息を吐きながら言った。
「校長室に行ったら、とっくに出た後だというし。どうしてこんな所で寝ていたの?」
 小安がそう言うのも尤もだと私は思った。そう、お母様を送りに途中まで車で行って、そこに貴公子に……。
 私は先程の事を思い出し、慌てて自分の服を見た。服の乱れはなく、ボタンの掛け違いもなかった。
 私はほっとして、空を見上げた。先程の出来事は本当の出来事だったのかしら? それとも白昼夢? 私は狐につままれたのではないかと思った。
「えーと……母親を途中まで送ってきたのだけど、森が美しかったから散歩をしたら遠回りになってしまって。寮に着いたので疲れてベンチに座ったら、眠ってしまったみたい」
 私の白昼夢を話した所で、彼女達は信じないだろう。何の変哲もない私みたいな平凡な者が、いきなり貴公子とセックスしたなど。私はもう一度、自分の服装を見た。うん、乱れていない。そう、きっとあれは夢だったに違いない。
「とにかく夕食に間に合って良かったわ。食堂はこっちよ。早く行きましょう」
 小安が私ににっこりと微笑みかけた。ほえ〜、天使の微笑みだ、と私は思った。きっとこの学校でも、彼女は目立つに違いない。
 寮の端には屋上までガラス張りの部分があり、そこが吹き抜けのカフェテリアになっていた。食べる場所が何層にもあり、その中央部分が吹き抜けになっていた。
「新学期の始まりと、終業式の日は、ここで全学年が食事するから広く作られているのよ」
 上の方を見上げている私に、榊原が言った。
「和食、洋食、中華が選べるようになっているの。洋食は各国の食事が日替わりで替わるのよ。食事はどの階からでも取ることが出来るから。上に行く方がやや空いているから、上へ行きましょう」
 私達は榊原に連れられて、エスカレーターで上がった。
 すると上から貴公子が降りて来るではないか! 私は彼女の姿に気付き、脈が速くなるのを感じた。貴公子の横には黒いロングスカートが合う金髪碧眼の少女が立っていた。私は金髪の少女の腰に回された貴公子の手を見てドキッとした。あれは……あれは本当に夢だったのだろうか。しかし私の目の前には、どうみてもカップルな貴公子達がいた。
「まっ!」
 貴公子の姿に気付いたのか、榊原が私の手を引っ張り、私をエスカレーターの外側へと移動させた。そして私を隠すように、彼女が立ち塞がった。
「やぁ、榊原女史。ご機嫌よう。そこにいる子猫ちゃんは、新入生かい?」
「貴女には関係がないんじゃなくて!?」
「冷たいなぁ、同級生なのに」
 同級生? あれが同級生!? 私は自分の耳を疑った。
「俺は有田翡翠(ありた ひすい)。君の名は?」
「成田ひかりです」
 私がそう答えると、小安が私と有田の間に立った。
「ご機嫌よう、有田さん」
「ふふ……ご機嫌よう、美奈子姫」
 私達はすれ違い、ゆっくりと離れていった。
「またね、子猫ちゃん」
 私は顔が真っ赤になった。あれは夢? そうれとも現実? 妄想にしては激しすぎる。でも彼女と触れ合ったとは思えない。それに“俺”と彼女は言った。夢と一緒だ。
「アイツに名前なんていう必要などなくてよ、ひかりさん」
 小安が少しむっとしながら言った。
「ひかりさんは私の大事なお友達。あの人はこの学校の悪性ウィルスですわ。触れては駄目よ」
「どういう人なのですか? 小安さん」
 私は少しでも貴公子の事が知りたかった。
「美奈子って呼んで。私達友達でしょ?」
 小安が私の手をぎゅっと握った。白雪姫のような小安に手を握られ、私は体の中が熱くなるのを感じた。
「もう、問題児なのよ。そうそう私の事は志文って呼んでね。授業はサボってばかり。事件を起こしてばかり。大丈夫、ひかりは私達と一緒にいれば、安心よ。私が絶対に守ってあげる」
「さぁ、食事をしましょう。ひかりさんは何にする?」
 小安がにっこりと微笑みながら言った。

 食事が終わり、私達は部屋に戻った。各部屋にはシャワー室があり、私は小安に使い方を教わった。早い時間だったが、私は先にシャワーを浴びた。
 水が私の体を包み込んだ。水の音が私を孤独にする。私は今日の事を考えた。あれは夢? それとも現実? ううん、現実な訳が無い。でも……でも。
 私はシャワーを浴びながら、横にある鏡を見た。そして赤い痣にはっとし、私の胸元を見た。私の胸の谷間には、くっきりと赤いキスマークが付いていた。
 あれは夢ではなかった。
 そう思った時、小安が言っていた「問題児なのよ」という言葉を思い出した。両手を押さえられ、愛撫され、快感に身を委ねた私。
 私は股の間に手を入れ、ヴァギナを弄った。体の中から愛液が溢れ出した。指を伝った粘液は水と合わさり、床へと流れていった。

[09/10/2006 UP]
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