藤間紫苑 Fujima Shion

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百合小説
愛こそすべて
第一話 出会い 第二話 新しい生活 第三話 初めてのキス
第四話 美味しい紅茶 第五話 束縛 第六話小さな貴婦人

第六話 小さな貴婦人[6-1]
「そういえばひかりさん、教科書を受け取っていないでしょう。宿題や予習もあるから早く取りにいかないとね」
 そう言うと小安は席を立った。私達は一番最初に入った教会のような建物に入った。
「日曜日は十時からこちらの建物で礼拝があるのよ。自由参加という名目の強制参加だから、ひかりさんも参加してね」
「自由参加というのは、帰宅している人は出なくても問題が無いというだけだから。ここよ」
 榊原は校長室の隣にある職員室のドアをノックした。中から、はいりたまえ、という低い女性の声がした。
「失礼します。転入生の成田さんの教科書を取りに来ました」
 広い職員室には十名程の教師がまばらに座り、仕事をしていた。入口近くにいた教師が私達の方を見つめていた。
 意思の強そうな真っ直ぐな眼差し。どことなく榊原に似ていた。
「やぁ、君が成田ひかり君だね? 校長から話は聞いているよ」
 そう言うと、教師は入口近くの本棚から紙袋を出し、私に手渡した。
「私は榊原アンドレア。君の上の学年を持っているからあまり会う機会はないと思う。君の同室の志文は私の妹だ。よろしく頼むよ」
「あ、志文さんのお姉様なのですか」
 メガネっ娘属性の榊原に比べ、榊原アンドレアはボーイッシュでクールな女性だった。ただ違うのは、身長が145センチ程しかないことだろうか。榊原アンドレアはブルーのベストの裾をぴっぴっと引っ張り、背筋をすっと伸ばした。
 格好良い。
 私よりも15センチ近く低い彼女だが、格好良いという言葉しか思いつかなかった。彼女の頭の位置と、私の体の位置を比べると、どう考えても145センチ程の背丈だと思われる。しかしその存在感と威圧感はどうだろう。とても小柄な女性には思えなかった。
「榊原君。もう成田君の歓迎会は行ったのかね?」
「いえ、まだです。今夜にでも行なおうと思っていました」
「結構。成田君、困った事があったら、気軽に榊原君と小安君に相談するといい。楽しい学園生活を送りなさい」
「ありがとうございます」
 私が礼を言うと、榊原アンドレアはこくんと頷いた。
「では榊原先生、失礼します」
 小安が挨拶したのに合わせ、私達は軽く礼をし、廊下へと出た。
「格好良いお姉様ね」
 榊原はちょっと複雑そうな表情をした。
「そうねぇ……素敵だと私も思うのよ……でも、性格がきつくってね。厳しい姉よ」
 はぁ、と溜息を吐きながら、榊原は天井を見上げた。確かにあれを姉に持ったら色々と大変なのかもしれない。
「私、ひとりっ子だから、お姉様ってどんな感じなのかなって思ってしまいます」
「私もお姉様はいないから、志文さんのお姉様は羨ましいわ。素敵よぉ。ここだけの話だけどひかりさん、アンドレア先生はこの学校で一番モテルのよ」
「あー、もう、美奈子ったらバラして。もうね、皆さん、騙されているのよ、本当、きっつーい女なのだから」
「いいじゃない、素敵よぉ。もうあの声とか、仕草とか……たまりませんわ」
「美奈子姫の本命がいると知ったら、号泣して学校を辞める生徒が続出よ」
「あら、私の本命がアンドレア先生だと知ったら、誰でも納得するわよ」
「はいはい。さ、ひかり。あとはスーパーに寄ってから、食事に行きましょうか」
「はい」
 私は榊原達と話しながら、スーパーへと向かった。
「ここがスーパー。朝、七時から夜九時まで開いているわ。大抵の物は入手出来るわよ。カタログがPCにセットされているから、取り寄せも出来るし。欲しい本や雑貨が無かったら、早めに注文するといいわよ」
 榊原がそう言いながら、スーパーの中を案内してくれた。五階建てのスーパーには、一階に文房具と飲み物と菓子、二階から四階に書籍、五階に生活雑貨が陳列されていた。私は室内履きを探した。穿きやすい白のサンダルを見付け、購入した。私は初めて学生カードと指紋認証で買物をして、わくわくした。
「面白いですね」
 私がそう言うと、榊原がクスリと笑った。
「とりあえず最初に言っておくけど、エロい裏DVDとかは買えないわ」
 小安がくすくす笑いながら言った。
「ネットで見られるから、問題はないでしょう? ね、ひかりさん」
 エロい裏DVD。昔、友達が旅行土産に買ってきたDVDを、ノートPCで見た事があった。学校の机の上に置かれた小さなノートPCを、五人の女子が顔をくっつけながら見たのだ。外から見たら異様な光景だったに違いないが、私達は無修正のDVDを見るのに夢中だった。それからマクドナルドで、ひそひそとそのDVDの感想を語り合った。今では私の友達が全員性体験を済ませ、無修正DVDに興味を示さなくなった。私は初体験はまだだったが、無修正動画を幾つか観て、飽きてしまった。

[10/01/2006 UP]
第六話 小さな貴婦人[6-2]

 榊原と小安が買ったお菓子やケーキやドリンクと、私が買った靴を持って、私達は寮に向かった。私は先程小安が言っていた裏DVDの事を考えた。ネットで裏DVDを観られるという事は、児童が観られないようにフィルタリングされていないという事だろうか。しかし考えてみると児童用にフィルタリングする行為は、大人が作った「子供のイメージ」を子供に押し付けているだけに過ぎない。フィルタリングを通して世界を見る子供は、フィルタリングされていない世界を見る子供より、情報弱者となる。この学校の方針として、情報弱者になる子供を作らないというのは極めて考えられる事だ。部屋に帰ったら、PCを調べてみよう。
「寮に残っている人で、近くの部屋の娘をひかりの歓迎会に呼びましょう。……後々、面倒な事が起きないように有田さんも呼ぶけど、ひかりはいいかしら?」
 榊原が私の方を向いてそう言った。有田が来る。私は興奮を悟られないようにしながら榊原に、いいですよ、と言った。
 有田と話したい。答えは分かっている。ただの気まぐれ。そう、彼女が私の前に立っていた時、ほんの少しいつもより性的に興奮していて、その捌け口が私だっただけ。私はちらっと小安を見た。きめ細かな肌、形が整った唇。美奈子姫と呼ばれていたが、童話に出てくる白雪姫のように美しかった。考えてみれば法の下の平等を規定している日本に姫という身分の者はいない。なのに姫を求め、一人の個人を代理の姫にするなど可笑しな話だ。だが小安には物語が再現化されたような、説得力のある美しさが備わっていた。このぐらい私も美しかったら、有田を誘惑したのは自分だと、自信を持って思えるだろうか。
「なあに? ひかりさん。何か言いたそうな顔をしているわ」
「あの……肌が綺麗だなぁと思って。私なんてニキビだらけで困っています」
「ニキビはね、洗顔と睡眠と食生活の改善によって減るわよ」
 そう榊原が言うと、小安がぽかんとした顔付きをして言った。
「そうなの?」
「美奈子には関係ないわね。貴女にはニキビがあまり出来た事がないもの。テストの前になると少し出来るけど。ケーキもご法度。でも今日は食べちゃう日よ。ひかりの歓迎会だもの」
 榊原がケーキの箱をぎゅっと抱き締めて言った。
「この寮は食事が充実しているから、あまりケーキとか買う事がないのよね。だから昨日、ネットで予約しておいたのよ」
「そうそうひかり。スーパーはネットの予約を使うと便利よ。ケーキを買って、お茶を飲んで、お菓子を食べて。今、寮にいる人の一部だけ紹介するわ。全員は呼べないから」
「帰宅している人も多くてね。寮にいるのはそれなりの理由がある人ばかり。家に帰れない人、両親が忙しい人、勉強する人」
「中でも勉強する人はどの学年でも仲がいいのよ。図書館仲間だから」
 榊原がにっこり笑いながら言った。榊原は明らかに勉強する人の枠だ。小安も榊原と一緒に勉学に励んでいるのだろう。しかし小安の容姿で勉強も出来たら隙が無さ過ぎる。
 私は寮の天井を見た。今までの学校より一段階高い天井。学生の本分である勉学に励む生徒達。私はこの学校についていけるのだろうか?

[10/15/2006 UP]
第六話 小さな貴婦人[6-3]

 私達は部屋帰り、買ってきた荷物を広げた。私はお湯を沸かし、お茶の用意をした。
「とりあえずメールしておきましょうか」
 榊原がメールを打ち始めた。私はそれを横目で見ながら、カップを出した。誰が来るのだろうか。有田は来るのだろうか。彼女の事を考えると、胸がどきどきする。カップを持つ手が震える。一人で盛り上がって馬鹿みたいだ。有田にとってはただの同級生の一人にしか過ぎないのに。
 お湯が沸いた頃、一人の少女が開いた扉から入ってきた。
「こんにちワー」
 私は少女を見てはっとした。漆黒の肌、腰の辺りまで伸びる黒いツインテールがきらきらと光っている。そしてその身長の高さと腰の位置の高さ。背丈は170センチ程ありそうだ。
「カノジョがヒカリ?」
 黒い肌の少女は、目を輝かせながら私を見た。
「そうよ、彼女が成田ひかりさん。ひかりさん、彼女は陣場フィリッパさん」
「ヨロシク、ヒカリ。私のことはピッパって呼んでね」
 透き通るような声が私のお腹に響く。陣場は声楽か何かをやっているのだろうかと私は思った。
「成田ひかりです。宜しくお願いします」
 私はピッパと握手をした。彼女の手は体のサイズと比べて小さく、温かかった。
「成田……空港の名前ね。ヒカリの生まれはどこ?」
「東京です」
「私も東京ヨ。お父さんとお母さんが出合ったのも東京。それからお父さんがアメリカに転勤になって、最近、また日本に戻ってきたのヨ。私は転勤になっても学校が移らないようにこの学校に入ったの」
「私の両親と逆ですね。私の父親は去年からアメリカに転勤になって、今年から母親もアメリカに渡るもので、私だけ日本に残ったんです」
 お皿を出している榊原がえーっと言った。
「珍しいわね。アメリカに渡った方が就職に有利なのに」
「日本の方がアニメとか漫画の先進国ですから」
 私ははっきりとそう答えた。うん、言えた。漫画オタクだって、ちゃんと表明しておかないといけない。
「オー、日本のマンガ、アニメは凄いですヨ。私も観ます。ポケモンとか」
「ポケモンのアニメは可愛いですよね。あのカスミの胸元を隠すだけの用途で抱いているトゲピーはじゃまだけど」
「そうそう、アレはチェリーな大人が出した苦情で抱くようになったのです。腹立たしい出来事でしたネ」
「ポケモンは今年の秋に新作が出るので、楽しみにしているんですよ」
 陣場はきらりと目を輝かせた。
「私もポケモンマスターネ。後で、勝負しましょう。私、ゲームキューブも持ってるネ。ヒカリはアメリカのエレクトロニックショー・E3に行った事、ある?」
「いいえ」
「私もヨ。ネットのライブは観た?」
「観ましたよ。E3を観るのはゲーマーのたしなみですものね」
「2004年のゼルダの発表会!」
「世界の宮本茂が剣を持って現れたシーンですね。もう興奮しました。まだあのゼルダは発売されませんね。楽しみにしているのに」
「そうネ」
 陣場は少し寂しそうな顔をしながらうんうんと頷いた。

資料:2004年のE3 宮本茂登場シーン
[10/24/2006 UP]
第六話 小さな貴婦人[6-4]

「ちーす。ひかりちゃんの歓迎会だって?」
 黒羽涼子がにこにこしながら現れた。黒羽は早足で私に近付いてくると、すっと腰を落とし、私の腿に手を伸ばした。
「ひやぁ!」
「おお、感度良好だね」
 私はさっと黒羽から離れた。いけない。このまま流されていたら、私は淫らなオンナになってしまう。
「だ、だ、駄目ですよ。ひ、人の腿に勝手に触れちゃあ」
「何? それはひかりちゃんの許可があれば、思いっきり触ってもいいってコトかな?」
 黒羽が私の顔を覗き込んだ。真っ直ぐな瞳が私を捉える。駄目だ。押されてはいけない。
「駄目に決まっているじゃないですか。セクハラです」
「がーん! ボクってひかりちゃんに嫌われている!?」
「そんな事はないですよ。ただ……そんなにか、顔を近付けるなんて……恋人じゃないとしないじゃないですか」
「そんなことはない。現にボクは顔を近付けるのが好きさ。人の顔って遠くで見る時と、近くで見る時と印象が違ったりするよね。ボクはひかりちゃんの整った鼻筋が好きさ」
「そんな、誉めても何も出ませんよ」
 黒羽の人を射抜くような真っ直ぐな瞳、榊原の冷静沈着な雰囲気を醸し出している涼しい目元、ピッパの柔らかそうな筋肉と整った肌と官能的な唇、そして何より小安の御伽噺から出てきたような華麗な容貌。私のような平凡な顔付きの子に誉める所があるわけがない。
[12/10/2006 UP]

第六話 小さな貴婦人[6-5]

「あはは、ボクは本当の事しか言わないよ。そんなにネガティブに捉える必要はない。もっと自分の長所を伸ばした方がいいよ」
「はぁ」
 黒羽に言われると圧倒されてしまう。私の長所か。あまり考えた事がなかった。
 前の学校の友達は何かと自分達を低く見るのが美徳とみる風潮があった。特に金里という友達は誰が何を言ってもまず否定する子だった。面白い漫画の話をすれば粗を探して貶し、小説の話をすればやれあの主人公の性格は破綻しているだの、とにかく他人の好みを全否定する子だった。そんな子の前で自分の容姿の長所を言った日には、一年は貶され続けた事だろう。しかしよくよく考えてみれば、欠点ばかりを見て暗い気持ちになるよりは、良い点を見直して誉めるほうがいいに決まっている。
 私はふと、昔の友達の事を思い出してみた。よくよく考えてみると、金里だけではなく、他の子もあまり自分の長所を誉める子はいなかった。まぁ、飛びぬけて(小安のように)美しい子がいたわけではないが、特に変わった容姿の子がいたわけではない。逆に言うとこの学校に来なかったら、平凡という事を意識すらしなかったかもしれない。

[12/17/2006 UP]
第六話 小さな貴婦人[6-6]
 その時、ドアの外で榊原アンドレアが話している声がした。
「こんにちは。ほら、有田君、入りたまえ」
 小柄な榊原アンドレアが、長身の有田を後ろから軽く押しながら、部屋の中へと入ってきた。
 有田が来た。有田が来てくれた。
 私は彼女達の周りに金髪碧眼の美少女が立っていないかそっと確認した。どうやらいないようだ。私は少し安心した。
 しかし本当は安心する必要などないではないか、と私は自分自身を叱った。誰がどう見ても有田の“本当の恋人”は彼女だ。私は有田のちょっとした情事の相手でしかない。
 そんな馬鹿な事を延々と考えていた私の前に、有田がすっと立った。近くで見る有田は本当に格好良かった。だが確かに女性らしい胸の膨らみがある。どうして少年と間違えたのだろうと私は思った。姿をじっと見て、有田の肩幅が普通よりやや広い事に気付いた。撫で肩でもない彼女の肩は、強い意志を感じさせた。
「あー……、子猫ちゃん、改めて入学おめでとう。これ、私からのプレゼントだ」
 有田はそう言うと、薄いピンク色の薔薇の花束を私に手渡した。
「これ、私にですか?」
「そう。君をイメージしたんだが、お気に召してくれたかな?」
 有田はそう言うと、ちょっと恥ずかしそうにして視線を逸らした。
 有田が私にプレゼント? それもこんなに可憐な、薄いピンク色の薔薇の花束を?
 私は薔薇の花束をぎゅっと抱きしめながら、言葉を探した。
 何か、なにか言葉を発しないとダメよ、ひかり。お礼を言わないと。
 私の瞳は興奮して濡れ、涙が溢れそうになった。でもいけない。私の気持ちが皆にばれてしまう。
 どうしよう。どうしよう。焦れば焦るほど、私は言葉を失った。お礼を言う時の単純な単語すら頭に思い浮かばなかった。私は有田をただ見つめ続けた。有田は私を見つめ続けた。
 ああっ! このまま時間が止まってしまえばいいのに!
 恐らくもう二度と来ない有田との時間。だが私から話し掛ければいいのではないだろうか。しかしそのようなことが出来るわけがない。金髪の彼女が冷たい視線で私を見るだろう。誰だって彼女を独占したくなるだろう。そう、たった今、私が有田の瞳を独占しているように。有田は私をじっと見つめていた。そうだ、何か、何か言わないと。花束をいただいたお礼とか……愛の告白とか?
 しかし時は残酷に私たちの間を引き裂いた。
「へぇ、有田がプレゼントなんて珍しいねぇ」
 黒羽は私の腰を優しく抱いた。私の体は自然に黒羽の腕の中に包まれた。
 うーん、これって有田に誤解されてしまいそうじゃない?
 私はとっさに「花束をありがとう」と、有田に礼を言った。
「どういたしまして、子猫ちゃん」
 有田は黒羽の腕の中にいる私の右手にそっと触れると、腰を低くして私の手の甲にキスをした。その瞬間、彼女の唇の間から現れた柔らかい舌の先が、私の手の甲を舐めた。
「!!」
 私はその瞬間、全身に電気が走るような痺れを感じた。体全体がびくんと震えた。
 止めて、有田。私に触れないで……!
 私の下半身はいやらしく反応して、ぽっと熱くなった。ヴァギナがきゅんと感じる。有田が私の手を離さないまま、私の瞳を覗き込んだ。
 やめて、有田。私を見ないで! 私を放っておいて! これ以上、貴女を好きになりたくないの……。
 その時、私の体がぐいっと後ろに引っ張られ、有田の手が離れていった。
 私ははっと、自分の体が黒羽の腕の中にいるのを思い出した。私の体が有田にキスされ、震え、感じたのを、黒羽は全て気付いたのだろうか?
「そこまでにしておきな。こっちに座りなよ、有田」
 私は黒羽の腕の中にいながら、有田を見つめていた。有田は、どうも、と言いながら、私が座る予定のお誕生日席とは逆の、一番端の席に座った。

[01/21/2007 UP]
<続く。 01/28 更新予定>
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