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その日は初夏だというのに、もう真夏のように蒸し暑かった。私は窓を開け、明日が提出日の課題を仕上げていた。妹は膝の上に乗せた陶器人形の髪の毛を丁寧に梳かしていた。
その時、窓際に置いてあったピアノの上に一羽の白い蝶が止まった。
妹はふふっと笑いながら言った。
「小春、今日ね、裏山で金色の蝶を見たのよ」
刺繍をしていた手を止め、私は妹の方を見た。
「金色の蝶?」
「お婆様がこの間お話しして下さったでしょう? 幸せになる蝶だって」
妹は目をきらきらさせながら、私を見た。
「そんなお話をしていたかしら」
「裏が黒い蝶なんだって」
「ああ、あの不幸になるという」
そうだ、金色の蝶の話をしていたらこの子があまりにも夢中になるので、不幸を呼ぶ蝶でもあるから見たら逃げなきゃいけないよ、とお婆様がおっしゃっていたっけ。まだ幼いこの子が、蝶を追いかけて森に入っていったら大変だと思ったのだろう。
「違う! 幸せになる蝶よ。ね、小桜ちゃん」
そういって妹は手に持っていた青い目の人形に語りかけた。
あれが作り噺だと私は知っていた。お婆様は子供達に作り噺をするのが大好きなのだ。だから金色の蝶を見た、というこの子の噺も作り物に違いなかった。
「でもねお姉様、徳ちゃんはそんなの作り噺だっていうのよ」
近所に住む妹の同級生・夏目徳はとても利発な少女だった。彼女だったらそのような子供っぽい作り噺を信じるわけがなかった。
だが金色の蝶がいるかどうかなど私にはどうでもよい事だった。それよりは課題の刺繍を早く終わらせたかった。
「……そう。でも裏山は危ないから気を付けなさい。徳ちゃんと二人で入っちゃ駄目よ」
「はーい、お姉様」
その時、窓の外から小春を呼ぶ徳の声が聞こえた。
「徳ちゃんだ!」
小春は陶器人形を籐で出来た椅子に坐らせ、玄関へと走っていった。
やっと静かになった。と思ったのも束の間、妹が帽子を忘れている事に気付き、私は玄関へと向かった。
「いるもん!」
「幸せになる蝶なんていないに決まっているじゃない」
玄関では小春と徳が幸せになる蝶について口喧嘩していた。
「小春、帽子を被りなさい。徳ちゃん、小春をお願いね。さ、遊んでいらっしゃい」
「お姉様、お姉様も蝶はいるとおっしゃって」
妹は涙顔で私に訴えた。
「はいはい、分かりました。気を付けていってらっしゃい」
私は適当に返事をし、玄関を閉めた。妹と会話したのはこれが最後となった。
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〇
新宿御苑正門前で車を降りると、そこには夢見女館の女主人・サチが立っていた。
「これは錦織様、いらっしゃいませ」
「今夜も楽しませてもらうわ」
私はサチに掴まりながら、夢見女館までの道をゆっくりと歩いていった。
「足場が悪いわねえ」
「申し訳ございません。もうすぐでございますから」
どうしてまたこの店に来てしまったのかしら、こんなに道が悪いのに、もっと明かりを燈すべきよ、と私はサチに提言した。
「ああ、やっと着いた」
夢見女館の館内は天井が高いにも拘わらず暖かい室内温度を保っていた。
「はあ……ここはいつも心地好いねえ。小春日和のようだよ」
私は若い店員にコートを預けながら、サチに話し掛けた。
「そういえば私には小春という妹がいてね。とても蝶が好きな子だったんですよ」
「まあ、妹さんですか。こちらへどうぞ、錦織様」
女性達が重なって造られた『人間椅子』に私は坐った。そして足元に蹲っている老女の上に足を乗せた。
「はあ、極楽、極楽。それでね、その人形が大好きだった小春はね、近所の同級生に殺されちまったんですよ。
……あの日はとても暑い日で、小春に白い蝶の話をしてやったんです。白い蝶は死んだお婆様の魂なんだよと」
「お婆様の魂でございますか」
サチは青ざめた顔で私を見た。
「そうなんだよ、亡霊さ。小春は蝶みたいな娘だった。白いスカートを着て……その頃、スカートなんてめずらしかったんだよ……つばの広い帽子を被ってひらひらと歩いているそりゃあ可愛い子だったんだよ。いつも小桜という陶器人形を持っていてね。小桜は、あーおい目をしたお人形は〜ってやつで洒落た人形だったよ。多分、その小春の同級生はあの子を妬んだのだろうね。妹が居なくなった日、小桜も無くなっていたんだよ」
「まあ……」
サチはこくり、と唾を飲んだ。私は眉間に皺を寄せ、語り続けた。
「その同級生に誘われた小春は白い服を真っ赤にされて殺されたんだよ。その日の夕方、あまりにも小春の帰りが遅いので、私は隣の夏目さんちに行ったんだ。するとね、どうだろう。うちの小春が帰ってきていないのに、徳はいけしゃあしゃあと戻ってきて夕御飯を食べているじゃないか。私はその時ピンときたんだ。ああ、この子がうちの小春を殺したんだとね。その夜、とうとう小春は帰ってこなくて、次の日、大規模な捜索が行なわれたんだよ。
私はお巡りさんに言ってやったのさ、夏目の娘がうちの妹を殺したんだって。でも証拠不充分ってやつで徳はとうとう捕まらなかったんだ。
それから一ヶ月近く徳が小春を誘ったという裏山を調べたんだけどね、結局小春は戻って来なかったんだよ。金髪の小桜もね。私は悔しかったよ。夏目一家は捜索が打ち切られると逃げるように遠くに引っ越してしまってね。徳に会うことも出来なくなってしまった。
それから二十年後、土地開発会社に裏庭を貸すことになってね。森があっというまに禿山になったら、どうだい、春子が出てきたんだよ! 骨だけになってね……小さい子供だったのにかなり奥まで行ったらしいんだ。かわいそうな子だったよ。本当に不憫でならないよ。今、生きていれば結婚して子供を産んで幸せな家庭を築いていたに違いない。徳なんかに付いて行って、本当に馬鹿な娘だよ」
私は声を出して妹のために泣いた。サチが私の頬にそっと白いハンケチをあててくれた。
すると私の足元にいた人間椅子も嗄れた声を出して泣いた。
「うう……うう…………」
人間椅子はもぞもぞと体を動かし、私の足を背中から下ろした。
「なんという運命の悪戯でしょうか! 紅子姉さん! あたしが徳でございます! 貴女様の足元にいたこの老いぼれこそがお探しの徳でございます」
私は驚いて老女をまじまじと見た。
「あんたが徳かい!
わ、私の妹を殺した徳かい!」
徳は涙を滝のように流しながら、私の膝にしがみ付いた。
「そうでございます。あたしが徳です。
ああ、あたしはなんて愚かな人間なのでございましょう。
あの夏の暑い日。そうあの日を境にあたしと姉さんの関係は壊れてしまったのです。それも全てあたしが悪うございました。
あたしと春子ちゃんは小さな虫篭と帽子を持って白い蝶を採りに裏山に登ったのでございます。春子ちゃんはひらひらした白いスカートを履いていて、その姿はまるで白い蝶そのものでございました。あまりの可愛らしさにあたしは姉さんから教わった内緒の遊びを春子ちゃんに教えてあげたのです。
あたしは森の中のいつも姉さんと遊んでいるあの広間で、春子ちゃんを草の上に寝かせ言い聞かせました。『貴女はあたしの小桜ちゃんよ。だからあたしの言う通りにしなきゃ駄目』と何度も言ったのです。春子ちゃんは小桜ちゃんごっこをとても気に入りました。そして若草が生い茂る緑の絨毯の上に寝転んだのです。スカートが広がったその姿はまさに紋白蝶のようでした。
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あたしは春子ちゃんを『小桜ちゃん』と呼びました。そしてその頬にキスをしました。小桜ちゃんの頬は温かくピンク色に染まっていました。あたしは小さな唇にもキスをしました。小桜ちゃんの唇はふにっとしていてとても柔らかかったのを今でも覚えています。
するとどうでしょう! 小桜ちゃんが唇を尖らせあたしのキスを受け止めたのです。あたしは肘を曲げ、白いフリルが付いたブラウスの上から小桜ちゃんの胸をそっと触りました。小桜ちゃんは子供らしくない甘い溜息を吐きました。その小さな吐息はあたしを狂わすには十分でした。あたしは小桜ちゃんのブラウスをめくり上げ、シュミーズの上から小さな乳を摩ったのです。小桜ちゃんはあたしの手の動きに応対して『あん、あん』と色っぽい声を漏らしました。
あたしはシュミーズの上から小桜ちゃんのおっぱいを舐めました。でもやはり邪魔だったのでシュミーズをめくり、小桜ちゃんの小さな桜色のそれを舐めたのです! 小桜ちゃんはふるっと体を小刻みに震わせました。
そうしたらどうでしょう! 小桜ちゃんはあたしの左手を自分の股へと導いたのです! あたしは興奮しました。そしてとても乱暴に小桜ちゃんのパンツを下ろしたのです。
草の上に広がった白いスカートの上には、小桜ちゃんの割れ目が隠される事無く日の光を浴びていました。あたしはいつも紅子姉さんが見ているあたしのはこんな風なのだと感心しました。あたしはいつも姉さんがしてくれるように、彼女の割れ目を舌でぺろぺろと舐めました。彼女は『くすぐったい』と言いつつも、潤んだ瞳であたしを見ました。
あたしは小桜ちゃんの割れ目が柔らかくなるまで一生懸命舐めました。小さな胸と丸いお尻を揉みながら舐めていたら彼女の体は次第に安心していきました。
その時です! 小桜ちゃんが『あのね……そこに指を当てて欲しいの』と呟いたのです!
小桜ちゃんも紅子姉さんと内緒の遊びをしているのだと、その時あたしは確信しました。
あたしは興奮がやまず、ガタガタと体を揺さぶりながら小桜ちゃんの割れ目に指を当てました。そしてゆっくりと割れ目を開いたのです。彼女の体の中は興奮していました。あたしは小さな、本当に小さな蕾に小指を刺し込んだのです。
その時、小桜ちゃんは体をぶるっと振るわせました。あたしは熱く狭い蕾の中をずっと楽しんでいました。上にしたり下にしたり、そして二本入れたりして悦しんだのです。姉さんがしてくれたようにちゅうちゅう吸ってみたりもしました。小桜ちゃんはそのうち体をぴくっ、ぴくっと震わせるようになりました。
あたしは腰に着けていたリボンを解いて、すっぱだかにした小桜ちゃんの体に巻き付けました。両手を括られた小桜ちゃんは本当にお人形さんのようでした。あたしは草の上にいたありんこを彼女の乳首の上に乗せ、悪戯を続けました。彼女の白い肌の上に黒いありんこが一匹、二匹と増えていきました。それを見ながらあたしは両親指を彼女の蕾に刺して、熱い体の中を弄ったのです。
でも残酷な事に日は傾き、帰る時刻になりました。あたし達は身支度を整え、家へと向かいました。
あと少しで森を抜ける頃、小桜ちゃんが言いました。『……パンツを忘れたみたい』と。あたしは慌てました。彼女は『先に帰っていて』と言って今来た道を戻っていきました。あたしはいつも歩いている道だから心配ないだろうと思って、家へと向かいました。
これが小桜ちゃんとの最後の別れだったのです」
徳はうおおっと体を丸めて泣いた。
私は呆然としながら徳に言った。
「じゃあ一体誰が小桜を殺したというんだね! 徳、お前だろ! お前なんだろ! お前は人形の小春が欲しかったんだろ?! だってあの日から人形も無くなったんだよ。だから徳、お前のせいなんだよ!
それになんだい! 私はお前に触れたことなんて一度だってないよ!
し、し、舌で舐めたとか、指を入れたとか、冗談も休み々々お言い!」
私は足元に蹲っている老女を蹴った。
「お前が、お前が私の妹を殺したんだよ!」
老女は丸くなりながら声を出して泣き叫んでいた。
「御免なさい、御免なさい……」
彼女は手首に巻いた数珠をぎゅっと握り締めながら、ぶつぶつと呟いた。
「錦織様、これを……」
興奮した私を気遣って、サチが薄紫色のカクテル『夢見女館』を持ってきてくれた。
私はカクテルをくいっと飲んだ。
「あんたも言ってやっておくれよ。この殺人鬼に」
徳は私の足元に縋り付いて言った。
「ああ、姉さん御免なさい! あたしは小桜が羨ましかったんです! あたしも紅子姉さんの妹になりたかった、姉さんにいつも愛されたかった……愛されたかったんです……」
私は何がなんだか分からなくなった。徳が私に愛されたかったと言っている。私の大切な妹を殺した徳が。
私は人間椅子に深く腰掛け、天井を見た。天井に描かれた天使達は私を見下ろしながらケラケラと笑っていた。
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〇
「錦織様、お迎えの方がいらっしゃっています」
私ははっと目を覚まし、辺りを見渡した。
「もう朝かい」
「朝でございます」
私はゆっくりと起き上がり、テーブルの上に用意された緑茶を飲んだ。
徳、と名乗った老女は私の足元に蹲り椅子になっていた。私は彼女から足を下ろした。
そういえば前に来た時もこの女は私の足元に蹲っていたような気がする。いや、その前も。もっと以前から。私がこの夢見女館に初めて来た夜からこの老女は私の足元に蹲っていたのではなかったか。そして私はこの女を幾度も足蹴にしたのではなかったのか。
「帰ります」
「またいらして下さいまし。
殿方には内密に……」
サチが人差し指をそっと唇につけた。
「わかっているよ」
私はコートを羽織り、店を出た。
「足場が悪いわねえ」
「申し訳ございません。もうすぐでございますから」
私はサチに掴まりながらゆっくりと歩いた。
「もう春だねえ。そういえば私には小春という妹がいてね。
あの子が生きていれば…………」
新宿御苑の桜は朝靄に包まれていた。
《終》
12/30/2006 UP |
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