私は少女を椅子に座らせ、念入りに足を洗った。地面に両足を放り投げ、ぺたりと座っていたので汚れている。土と、元々の汚れだろうか。膝が黒ずんでいた。
優しく、痛くしないように膝をこする。だが汚れは取れない。これはどうやったら取れるのだろうか。お風呂から出たらネットで調べてみよう。
「ゆきちゃんはどういうので体を洗っていた? タオル? 垢擦り? スポンジ?」
少女は無表情のまま、少し考えているようだった。
「これは……タオル」
「そうだよ、ゆきちゃん。これはタオル。垢擦りはタオルと似ているけど、もっとガサガサしているやつで、スポンジはこう、丸かったり、四角かったして、ふわふわしているやつ」
私は手の指で円を作って少女に見せた。
「おじさんちではすぽんじだった」
「スポンジかぁ。今度買ってこようか」
少女は私の顔を暗い瞳で見つめた。
「こんど」
「明日……かな?」
「あした?」
「うん、明日」
「あした」
少女は少し首をかしげた。
「あしたもここにいていい?」
「うん。とりあえず一月十日まで会社はお休みだからね。それからもずっとゆきちゃんが居たいだけいていいんだけど……ゆきちゃんのママは死んじゃってて、パパは……」
「パパいない。ママはおじさんがパパになるっていってたけど、ならなかった。おじさんにはおくさんもゆうきもいた。ゆうきはおじさんとおくさんがわかれるをきらってた」
「ゆうきって誰?」
「ゆうきはおじさんのこども。いつもひるまにちゅうがく、かよってた」
「ゆきちゃんは高校に通わなかったの?」
「こうこう? いつもママといっしょにいた。ママがおしごとのときはこうえんかこんびに」
「小学校や中学校は?」
「いかない。ママがとくべつだからいかないでいいっていってた」
「特別?」
「とくべつ。たいせつだからって」
特別なお姫様だってことだろうか。
「でも、特別でもさ、学校に行って勉強しなきゃ。ひらがなは読める?」
「ひらがなとカタカナはよめる。ママのしょくばにたくじじょがあって、おねえさんがおしえてくれた。でもかんじとえいごとすうじがにがて」
「そっか。ゆっくり勉強していこうね」
「べんきょう……」
「楽しいよ、きっと楽しい」
「……たのしい」
少女は未知との遭遇にドキドキしているようだった。
「さ、洗い終わった。湯船に浸かってから、もう一回洗うよ」
「おゆ、あったかい?」
「うん」
そう言いながら私は湯に手を入れた。
「丁度良い」
少女がそっと湯船に入った。
「ちょうどいい」
少女は私の言葉を繰り返し、少しほっとしたようだった。

■続く