少女はそっと手を下ろした。
私は彼女の頭を優しく撫でる。
緊張している小動物を撫でているような気分だ。なぜここまで怯えるのか。私には想像が出来ない。
暫く撫でていると、少女が私を見た。
「……かみのけをとかす?」
「ううん、撫でてるだけ。梳かすのはお風呂を出たらしようね」
私は撫でるのを止め、彼女の肩に再びお湯をかけた。
膝を抱え湯船に浸かっていた少女は、ゆっくりと足を伸ばした。そして少し横になるように体を伸ばす。足を広げる。
少女の少ない陰毛の奥から、陰部が少し見える。
少女はヴァギナを、そして胸をオヤジ達に触らせてきたのだろうか。そしてこの暗い瞳は快感に輝いたのだろうか。それとも無表情のまま受け入れたのだろうか。
少女はすっと目を瞑る。温かい風呂に身を任せ、安心しきっているようだった。
私は落ち着いて考えた。この成長しきってない少女を私は引き取って育てることが出来るのだろうかと。コンビニで声をかけた時は、ただ少女とセックスしたいと、そうこの子を拾ったオヤジ達と何も変わらない欲望の目で見ていただけだった。
お風呂に入れるのも、服を洗うのも、おでんを用意するのも、『注文の多い料理店』のようにぱっくり食べてしまうのが私の目的だったのではないか。
情が移ったわけじゃない。少女が可哀想だとは思うが、可哀想な少女時代を送るのは彼女だけではない。少女と一緒に食事するのと、少女を引き取るのとは意味が全く違う。
冬休み中にゆっくり考えればいいのかもしれない。だが少女を誘拐した罪で捕まるかもしれない。
そこで私は気が付いた。
この少女はそもそも住所があったのだろうか。保護者は今、誰なのだろうか。母親は亡くなった。父親はどこかにいるのか。母親の恋人だったオヤジは保護者として少女を探しているのだろうか(家から追い出したのに?)。
私の心に欲望が渦巻く。このまま少女を手元に置いておけるのではないか。しかし仕事中はどうしたらいいのだろうか。思考が交差する。
頭のどこかでサイレンが鳴る。駄目だ、この子に関わってはいけないと。元のコンビニに捨ててこいと。捨てる? まるで無責任に拾った動物のようだ。
少女をどうしたらいいのか。少女をどうしたら幸せになるのか。そもそも少女はどうなりたいのか。
目を瞑って安心しきっている少女。やっと安息の地についたかのように安らいでいる。
私はどうしたらいい?
その時、少女がはっと目を開き、私を見た。
そして少し暗い瞳を大きくし、私から視線を逸らし、俯いた。
私はまるで心が読まれたかのように感じて、ドキッとした。
捨てないよ。
と、言いたい。
ここにいなよ。
と、言いたい。
だが私にそれだけの事が出来るのだろうか。責任を負えるのだろうか。
私は悩みながら、少女の頭を再び、優しく撫でた。

■続く