新宿歌舞伎町はいつも以上にお祭り騒ぎだった。
サンタクロースやトナカイ、はたまた妖精のコスプレをする人もいる。明るい街の光は私と少女を照らす。だが少女の周りには暗い雲がかかっているかのようだ。
しかし歌舞伎町を歩くハンター達は少女を見つける。客に声を掛けながら、少女に視線を移す。幾らで売れるだろうか。そんな算段をしているかのようだ。もしかしたら私も、そんなハンター達にとっては仲間だと思われているのかもしれない。
明らかに違う服装。姉妹にも友達にも見えない私達。
少女は霞のようだった。私は彼女の存在を確認するために、ぎゅっと手を握った。
すると軽く少女が握り返してくる。
そんな小さなコミュニケーションが、私を安心させる。
手を繋ぎ、私の家へ向かいながら会話は続いた。
「そういえばお母さんは? はぐれてしまったの? お父さんとか……」
少女の服装から見る限り、三週間は子供の世話をしていないだろうと思われる母親のことを聞いた。父親のことはついでだ。今時、片親家庭など珍しくない。
「ママは九月に死んだ。ママの恋人だったおじさんの奥さんが、ママを火葬した後、追い出した。ママの骨はおじさんが持っていっちゃった。この小さなアクセサリーだけがママのもの」
そう言うと少女は小さな宝石が付いた首飾りを私に見せた。
「これがママ」
「そう……ダイヤかな? 綺麗だね。ママもきらきら光った人だったんだね」
「うん」
彼女はちょっとはにかみながら、こくんと頷いた。
「これはね、大切な物なの。ママだと思って大切にしなさいっておじさんが言ってた。おじさんはいつも痛いことするから、嫌な人だなって思っていたんだけど、いい人なのかも」
それは遺骨を渡さないための方便だよ、と少女に言いたかったけど、止めた。
痛いこと。暴力か、はたまたセックスか。どちらにしても少女にとっては辛い記憶なのだろう。
「まつりは痛いこと、する?」
私はドキッとした。セックスへの否定だろうか。少女を抱きたい気持ちがないと言ったら嘘になる。
「痛いことはしないよ。優しくする」
「優しく……? 優しく。やさしく」
少女は地面を見つめながら何度も呟いた。
私は手をぎゅっぎゅっぎゅっと三回握った。
「大丈夫。安心して」
そう言いながら、私の中で少女を自分の恋人にしたい欲望が大きくなっていった。

 

■ 続く