「外にいて、寒かったでしょ」
「……さむい……」
そう呟くと少女は暗い瞳で私を怖々と見た。
「寒いって言っても、私は叩いたりしないよ。ゆきちゃんが思ったり、感じたりしたことを言っていいんだよ」
「……かんじない」
少女は湯船から両手を出して、そっと見つめた。
「おゆはあたたかい。でもそとのさむいがかんじない。あたたかい。さむい。あたたかい。さむい」
少女は少し正面を見てから、私に視線を移した。
「まつりはかんじる?」
「うん」
私は少女の肩にお湯を掛けた。
「温かい。冷たい。痛い。柔らかい。美味しい。不味い。感じるよ」
「あたたかい……つめたい……おゆはいたい……」
「お湯で、シャワーで痛いことされた?」
「おばさんが……いたいおゆで……ふわーって……わらいながら……じゃーって……きたないからよごれをおとしてやるって……いたい……いたい……」
少女はひっ、ひっ、と呼吸を詰まらせた。
「大丈夫。ほら、お湯は温かいでしょ。でも聞いて」
私はシャワーの温度調整部分を指した。
「ここを触っちゃダメ。痛いお湯。熱いお湯が出てくるからね」
少女はうんうん、と頷いた。
「触らない」
「痛くなるからね?」
「そこはさわらない」
「よしよし」
私は少女の頭を撫でようとし、手を伸ばした。
すると少女は、ひっと声を詰まらせ、頭を押さえて俯く。
私は驚いて、手を一瞬、引っ込めてしまった。それからそっと手を伸ばす。
「大丈夫。撫でるだけだから。叩かないよ」
少女は暗い瞳で私を見た。
「たたかない?」
「たたかない。撫でるだけ」
そして少女が警戒して頭を押さえている手の甲を撫でた。
「熱いお湯が出てくる所は触らないって覚えたね。良い子だね。よしよし」
少女は宙をじっと見ながら、両手を頭に乗せ、私に黙って撫でさせていた。
そして無表情のまま、呟く。
「いたく……ない」
「そう、いたくないよ」
少女はじっと私を見た。少し喜んでいるようだった。

■続く