少女は安心しきっているようだ。すーすーと寝息をたて、もう眠りについた。
トースターの中にバターを塗った食パンを入れ、食パン二枚用スイッチを押した。
昨日のおでんがまだ残っている。一度温めなおす。
冷蔵庫の中をチェックする。切れてるカマンベールチーズと……おっ、ミニトマトと卵があった。ミニトマトを切って卵と炒め、塩胡椒を振る。
お皿にトマト卵炒めとカマンベールチーズを乗せた。そして焼きたての食パンも乗せる。
「ゆきちゃん、朝ご飯出来たよ」
少女はその言葉を聞くとがばっと起きた。
「ごはん」
「そう、朝ご飯」
彼女はベッドから降り、昨日着ていた服に着替えた。
「パンだ。これはたまごいため? あかいね、トマト?」
「そう、トマト卵炒め」
「トマトたまごいため! すごい。まつり、すごい」
「そうかなぁ」
少女に褒められるとちょっと嬉しい。
「あとカマンベールチーズね。あ、飲み物がないか。ホットミルクにする?」
少女はこくんと頷いた。
私はミルクに少しメイプルシロップを入れて、電子レンジで一分温めた。
私の分はウォーターサーバーの水とお湯を混ぜてぬるま湯を作る。これが毎朝の飲み物だ。
「遅くなってごめん、さぁ、食べましょう」
少女は手を組んで、いただきますと言った。そしてトマト卵炒めを口に運ぶ。
「おいしいね。まつり、おりょうり、じょうず」
「いつもはもっとずぼらだけどね。今日はカフェ飯」
「カフェめし」
少女はじーっとお皿を見た。
「カフェ……みたい?」
カフェという言葉は知っているようだが、カフェに入ったことがなさそうだ。
「今日、お買い物したらカフェに寄ろうね」
新宿区役所で少女の身元も調べなければならない。だがその前に美容院へ行って、服と靴と小さな鞄、それに連絡用のスマートフォンを買わなければならないだろう。
髪の毛を切り揃えるだけで、もっと可愛くなるだろう。
楽しみで、にやにやする笑顔を押さえるのが難しい。

■ 続く