美容室へ行ったのに、少女のことを店員に聞けなかった。誰か知り合いがいたら少女を奪われてしまうのではないかという恐怖と嫉妬。
「ゆきちゃんのお母さんは歌舞伎町で働いていたの?」
「…………」
少し考えてから、少女はこくりと頷いた。
「ママはたぶん……かぶきちょうではたらいていた。おきゃくさんがついたひは、ごはんがたべられるの。おおきなこうえんでずっとあそんでいた。ビルのなかをたんけんしたりした。しごとがおわるとくるまでおじさんちにおくってくれるの」
「おじさんちはどの辺にあったの?」
「…………ねりま」
「練馬!」
大根の産地か。遠い。
「え? じゃあゆきちゃんはどうやって歌舞伎町へ来たの?」
「あるいてきた。とちゅうでくるまにのせておくってくれるおじさんがいた。それできた」
「おじさんがおくってくれたんだ」
「きすして……くれっていわれたけど、かぎあけてにげた」
「良かった。知らない人の車に乗っちゃ駄目だよ。危ないからね」
「……あぶない」
「そう、誘拐されちゃうかも知れないしね。ゆきちゃんの体は大事なんだよ」
「……だいじ……?」
「そう。大切な体だからね」
わたしの……という言葉は飲み込んだ。
「乗らない。知らない人の車には乗らない」
じゃあ知らない女の部屋に泊まるのは、どうなんだ……と思ったが、それは言わなかった。
「うん。そうして。GAPへ行って、お洋服を買おうね。その格好じゃあ、寒いでしょ」
「ぎゃっぷ」
「行ったこと、ある?」
「ない」
「そうか。初めてのお店だね」
私はそう言って、少女に微笑みかけた。

■ 続く