私達は少女が着ていた服や靴をGAPの店員に包んでもらい、その紙袋を下げ伊勢丹に入った。伊勢丹は年末ということもあり混んでいた。クリスマスが終わり、一瞬で正月へと衣装を着替えるデパート達。流石だ。
「靴は二階。下着は三階だよ」
私はエスカレーターに乗りながら、少女に言った。
「おおきなほうせきばこだね」
「そうね。うん」
デパートを宝石箱だと例える感性は私に無かった。デパートはデパート。生活必需品を買うところ。
まだ親と暮らしていた時、週末の買い物に付き合わされた。付き合わされたと言っても、中には私の服を買う時もあったのだが。
伊勢丹は母のお気に入りだった。よく母はデパートの外商と店内を回っていた。外商は家にも新作のジュエリーなどが入ると見せにきてくれた。母は真珠のネックレスを買うのが好きだった。たまに私の分も買ってくれることがあった。
「奥様、お似合いですよ」
「そうねぇ、次はもう少し大きくて質の良いパールのネックレスにして頂戴ね。あと価格はもっと抑えられるはずよ」
「奥様にはかないません。はい、次回はもっと勉強してきます」
そんなやりとりを聞いて、私は商品の質や、原価計算という言葉を覚えた。ただ原価を知っていても店舗の儲けを上乗せしなければならない。貿易商を営み、真珠も自分で買い付け出来る母だったが、近くのデパートにお金を落とし、便利さを継続させるだけのために外商を呼んでいた。
そんな親達に私がカムアウトしたのは大学生の時。セクシャルマイノリティーサークルに入ると決心した私は――そう、この時、私がセクシャルマイノリティーのサークルに入ると決意するのは清水の舞台から飛び降りるかのような覚悟だった――親が二人揃った夕食時、告白したのだった。
「そう。それで? 貴女は法学部に進んだけど、セクシャルマイノリティーの研究でもするのかしら。それとも転部の相談なの?」
「葵。祭はセクシャルマイノリティーである自分自身を告白したんだよ。今のはいわゆるカムアウトだ」
「あら、そうなの。海外のお友達から祭がセクマイじゃないかって助言されていたから、もう告白されていたものだと勘違いしていたわ。こうやって娘にカムアウトされた時、どう言ったらいいのかしら」
「……おめでとうかな」
「そうね。おめでとう、祭。よくカムアウトしてくれたわ」
よく出来た両親はそう言いながら満面の笑顔を浮かべた。
何故か私は心にぽっかりと穴が開いてしまうのだった。空しさ? 頭の回転が速い両親は、私の百歩先を歩き、私を失望させることがしばしばあった。
だが私も満面の笑顔を浮かべ、両親に言ったのだった。
「お母様、お父様に受け入れていただいて嬉しいです」

■続く