新宿区役所は歌舞伎町一丁目にある。少女の母親が書いていたプロフィールに記載された住所と近い。
私達は区役所を出て、現地へと向かった。雑多な街の中にある小さなビルディング。その一室が住所記載の場所だった。
看板には「おさんぽ倶楽部」と書かれている。少女が見上げ、か細い声で言った。
「おみせ……かわってる……ママがいたおみせとちがう……」
え? と私は思い、係員を見る。
「歌舞伎町ではよくあることです」
「そう……ですか?」
私が見ている歌舞伎町は建て替えたばかりの映画館があり、コンビニがあり、チェーン店や老舗の飲食店がある。正直、そんなにお店が替わっているという印象は受けなかった。
私達は狭いエレベーターで名前が変わった店へと向かった。
店の入口をノックすると、店員らしき金髪青年が現れる。
「こんにちは。ご利用ですか?」
「いえ、ここに以前あったお店と経営者は一緒ですか? この娘の母親がその店で働いていたと聞いて来たのですが」
私がそう言うと、金髪青年は首を振った。
「前のお店の事は知らないっす。オーナーも違います。うちは二十歳ぐらいまでしか雇ってないから、その子のお母さんは違う店へ移ったんじゃないっすかね」
「そうですか……ありがとう」
私の心に残念と安堵という二つの気持ちが沸き上がり、混じり合う。
「どうも」
そう言うと、金髪青年は扉を閉めた。
「区役所へ戻りましょうか」
係員がふぅっと溜息を吐きながら言い、エレベーターのボタンを押した。

■続く