【2015年 冬コミックマーケット89】

2015/12/30 東京ビッグサイト東5館 ポ05a 藤間紫苑.com

百合小説新刊あります! 百合小説のチラシです。

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〈小説抜粋〉
『路上の百合』1000円—-

新宿二丁目。

俺は裏路地で一人、立っていた。
別に客を取るわけでもなく、クラブへ行くわけでもない。ましてやバーに入ろうとしているわけじゃない。
生活ギリギリの給料でこの街は高すぎる。
早く家へ帰ろうと思いつつ、週末だということもあり、足が自然に二丁目へと向かってしまった。
年配のレズビアンカップルが目の前を通る。バーへ行くのか、クラブに行くのか。二人は腕を組んで楽しそうに笑っていた。
俺もあんな風にパートナーが出来るのだろうか。
俺もあんな風に歳を重ねることが出来るのだろうか。
そんな考えが頭の中に渦巻く。
渋谷区で『男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する条例』が可決するかしないかが話題になっていて……。
で、結局あれってどうなったんだろう。
分からない。
セクシャルマイノリティーへの差別が無くなるのだろうか。でも俺は今まで誰にも自分のセクシャリティーを話した事がない。
お金を持っていそうな貴婦人から、食事を奢って貰ったり、お小遣いを貰ったり……これってワリキリ? いや、そうじゃなくって……。そうじゃなくって……。
俺はふぅ……と溜息を吐いた。
学生の頃は良かった。なんて思わない。家は貧しくて、俺は奨学金を貰っていたのだが、その借金が未だに重い。
女からお小遣いを貰うより、男と寝た方がもっとワリキレるのかもしれない。
男と寝たらレズビアンじゃなくて、バイセクシャル? いや、心は高くレズビアン。
だけど、俺は誰にもセクシャリティーを言えない。
「ねぇ、君ってトランス?」だとか「お前は男だろ。だって一人称が俺だから」だとか女達に言われた。別に俺は男でもトランスでもない。そう考えると男だとか女だとかトランスだとか……とか、あまり俺の人生には関係ない。
毎日考えるのは金のコトだけだ。
「お金なんていくらあっても足りないよ」と澄まし顔で言うのは金持ちの台詞で、俺に必要なのは毎日の食費と生活費。
そうだ。生活費を稼いでは知人を裏切ってきた。メールを作っては人を騙し、メールを変えては人を騙し……。
そうしないと食っていけない。そうしないと生きていけない。
俺の人生はまるで万華鏡の様にくるくると変わる。六ヶ月毎に変わるメアドと、人間関係。
(同人誌に続く)

『新宿 少女観察日記』300円 ——
「ハッピィバースデー、ゆきちゃーん、メリークリースマース、ゆきちゃーん」
暗い部屋の中にふわりと光るサンタ型のローソクに照らされた少女・ゆきの肌は妙に色っぽく、白かった。
ゆきという名は雪から取ったのかもしれないとその時、私は思った。
「さぁ、消して」
少女は口を窄め、ふーっとローソクを消した。
部屋が真っ暗になる。
パチパチパチというゆきの無邪気な拍手が部屋に鳴り響く。
そんなに私を信用してもいいの?
そう、私は心の中で呟く。
焦がれるような気持ちをこの幼い少女に抱きながら。

「お先に失礼します」
私が会社の予定表に『クライアントと会議。直帰』と書いていると、同僚が話しかけてきた。
「あ、四季さん、直帰? 今日飲み会があるけど、どうする?」
「んー、仕事片付いたら考えるわ。場所はいつものとこ?」
「そう。んふふー、今日はクリスマスだもんね。誰かと待ち合わせ?」
「いたらいいね、その誰か」
「暇だったら飲み会に来てね。じゃあ」
「じゃあ」
私は鞄をぎゅっと肩に掛け、オフィスを出た。
ビルを一歩出ると冷たい風が頬にあたる。今年もホワイトクリスマスにはならなかったな、と考える。
誰かと待ち合わせか。誰もいないよね、そんな人。それはきっと私がレズビアンだからじゃない。仕事人間だからだ。
帰りに新宿二丁目へ寄ってバーにでも行こうか。いい人との出会いなんかなくても、バーのママと話せる。
三時間後。クライアントとの年内最後の打ち合わせを終えてシティホテルの喫茶店を出る。
クリスマス当日ということもあり、ホテルには次から次へ客室に人が入っていった。
そんな日も私は仕事。もちろんクライアントとはクリスマスも仕事なんてねーと二人で苦笑い。でも彼女はいつもより綺麗に着飾っていた。この後、誰かと会うのだろう。プライベートで。
ふと映画が観たくなってトーホーシネマズ新宿へと向かう。こんな日は満席だろう。
コンビニでホットゆずドリンクを買っていこうか……と思っていた時、私は少女に出会った。
少女はコンビニの前で両足を投げ出し、地べたにぼーっと座っていた。
少し服が汚れている。子供ホームレスだろうか。
私は少女に声をかけようか躊躇した。その時、ふと彼女が顔を上げる。
私の靴から膝から腰から胸へと彼女が視線を動かし、目が合う。
表情がない。真っ暗な大きな瞳。
なのにこの少女は、なんて愛らしいのだろう。
「どうしたの? 寒くない?」
コートも羽織らず、少女はコンビニの前にいたのだ。この真冬の北風が冷たく吹く夜に。
「……さむい……?」
少女は寒いのか寒くないのか、わからないようだった。
「良かったらうちに来ない? 夕食を一緒に食べよう」
私は膝を曲げ、少女と同じ目線になり、彼女へ手を差し伸べた。
一瞬少女は考え、それからゆっくりと私に手を伸ばしてきた。
私は少女のがさがさになった手を取る。
「決まり。行こう」

クリスマスの夜に私は少女を拾った。
(同人誌に続く)

冬の祭典、コミックマーケット。ぜひお立ち寄りください。