「ここがGAPだよ。ゆきちゃんのサイズだとキッズかな……ええと……地下だ」
私は店内地図を見ながら言った。心の中で、キッズコーナーなんてものがあるんだ……と思った。
エスカレーターで地下に降りると、可愛らしいキッズコーナーが広がっていた。
「どういうのがいいかな」
私は真っ白なロングセーターを手に取った。
「あ、こういうのが似合いそう」
私は少女の体に、白いロングセーターを当ててみる。『ママのお古』だという派手なピンク柄のTシャツの上に当ててみる。
「うわぁ、可愛い」
少女の肌はまだ少し薄汚れていた。だが汚れていても分かる白い肌。そんな彼女が白いロングセーターを着た姿を想像する。
「セーターとズボンとコート、下着、靴下、靴、ってことろかな」
少女は派手なキラキラしたシャツをじっと見つめていた。母親が持っていた服はそういうタイプだったのかもしれない。
「白のセーター、ショーパン、タイツ、ダウンコート、ショーツ、と」
私は真っ白な色で揃えた。
「ブラジャーは伊勢丹へ買いにいこうか。靴もね」
ちらっと少女を見る。少女は真っピンクに文字が書かれたトレーナーを見ていた。
「これも欲しい?」
私がトレーナーに触れると、少女はぶんぶんぶんと首を横に振った。
「……これ、可愛いと思う?」
そう少女に聞くと、少女は俯き、黙ってしまった。
少女の「欲しい」という欲望は母親によって抹殺されてしまったのだろうか。
「これも買おうか」
「いらない。ほんとうにいらない。みていただけだから、みていただけだから。ごめんなさい。ごめんなさい」
「謝らなくてもいいよ。ただ、ゆきちゃんに似合うと思ったから」
そう言って私は買い物袋に入れた。
多分、雪みたいな真っ白い服の数々は、私が想像している空想上の少女で、リアルな少女は母親のケバい色をした服の古着を着ていたのだろう。
ただ真っ白な、なんの汚れもない服を着て欲しいと思うのは私の我が儘なだけなのだ。