「十五歳? 本当に?」
少女は暗い瞳をさらに暗くし、俯いてしまった。あぁ、もうこの係員との関係は結ばれないなと私は思った。
「本当かどうかなんてこの子に言っても仕方ないでしょう」
「こんな綺麗な格好したホームレスなんていませんよ」
係員は自慢そうに自分の知識をひけらかした。
「……そうですか。もう行こうか、ゆきちゃん」
少女がこくんっと頷いた。
私達が立ち上がり、帰ろうとしたその時、係員の後ろを通りかかった別の係員が声をかけてきた。
「どうしましたか?」
「いや、この人がね、この女の子が元ホームレスだと言うので……」
「じゃあ替わりましょう」
新しく来た係員は横に座り、前の係員に向こうへ戻るよう促した。
そして前の係員が居なくなると、ゆっくりな口調で「お座りください」と私達に言った。
私が悩んでいると、少女がすっと座った。彼女が安心していられる人ならいいか、と思い、私も座った。
「今の人、この子がホームレスだったと伝えても信じないんです」
「失礼しました」
そして少女の方を向いて。
「大変だったね」
と言った。
「では仕切り直しましょう。まず……この子を保護した貴女のお名前は?」
「四季祭です」
「お住まいは新宿区ですか?」
「ええ」
「ではええっと……」
新しい係員は前の人が置いていった紙を見た。
「諸井ゆきさん。十八? ……十五歳なのかな」
少女はこくんっと頷いた。
「小さいね。でも十五歳で小さい子は沢山いるからね」
そうなのか、と私は思った。
「ホームレスをしていたと書かれているけど……」
「ええ。出会った時の服は汚れていたので、昨日洗濯しました。服も、靴も結構ボロボロだったので、今日新しい服を買ったんです。この寒空の下、コートも着ていなかったので買いました」
「買ったのは貴女?」
「ええ」
「昨日コンビニ前でゆきさんを保護し、服を買った……と」
係員は紙にすらすらと書いていく。
「それで……ゆきさんのお母さんは数ヶ月前に亡くなって、ホームレスをしていたと。親戚の方は? それまではどこの住んでいたのかな?」
少女がゆっくりと話し始めた。
「いつもはママのしょくばのりょう。ママがしぬちょっとまえはママのこいびとのいえ。でもおじさんにはおくさんとゆうきがいて……ママがしんだらおいだされた」
「ママの恋人……親戚の人じゃないね。他に親戚はいたかな?」
「しんせき……」
少女は困ったように私を見る。
「親戚って、お父さんとか、叔父さん叔母さんとか、兄弟とか……」
「いない。おとうさんってむかしからいない。きょうだいもいない。ママがゆきはひとりっこだっていってた」
「話をまとめると、普段はお母さんの職場の寮に住んでいた。最近はお母さんの恋人の家に住んでいたけど、お母さんが亡くなって出された。それはいつ頃かな」
「くがつ」
「九月ね。何か身分を証明出来るものはあるかな。例えば国民健康保険証とか、携帯電話とか」
「ほけんしょう? もってないってママが言ってた」
「お母さんの名前は?」
「諸井さくら」
「お母さんの携帯とか持ってないかなぁ」
「ない……おじさんがかいやくするってもっていった」
「じゃあ住基カードとか……ないよね」
「?」
「お財布は?」
「……もってない。おかねはホテルにとまるとき、たまにおにいさんやおじさんがくれた。でももうない」
私と係員はぎょっとし、お互いを見た。

■続く