係員はゴクンと唾を飲み込んだ。
「お母さんは携帯電話を持っていたかな」
「でんわ、もってた。おみせのおにいさんがくれた。でもすぐにつかえなくなった」
「そう。じゃあお母さんは電話を持っていなかったのかな?」
「でんわはしょるいがたりないからもてないって」
「お母さんにはパパとかママとかいた?」
「ママのママはこどものとき、いなくなっちゃったっていってた。それからはまわりのおじさんやおにいさんたちが……ママをね……ママをね……」
そこまで言うと少女は黙ってしまった。
性被害の連鎖。少女の母親もまた、少女よりも幼い時に親を失い、周りの大人達に弄ばれていたのだ。そんな彼女だが、また彼女自身と同じようにひとり親家庭を持ち、子供を育て上げた。もちろん少女の身体を守らず、男達に売り渡す方法は褒められたものではない。だが大人に蹂躙され、自尊心を失っている子が母親になり、子供を一生懸命育て上げたのだ。それは偉業と言えるのではないだろうか。
ふと少女は頭を上げ、黒い深淵を覗いた瞳で私を見た。
「ママはね、たくさんのおとこからおかねをもらって、そだててくれたんだ。だからまもらなきゃなの。まもってあげなきゃなの」
そこまで言うと、少女はまた俯き、黙ってしまった。

■続く