少女の体は洋服ほど汚れてはいなかった。どこかでシャワーを浴びていたのだろうか。漫画喫茶で? それとも私が拾ったように、誰か知らない人に拾われてシャワーを浴びさせてくれたのだろうか。
「あ、体を洗うタオルっと。柔らかいタオルにしようね」
私はいつもあかすりで洗っているのだが、少女をあかすりでこすったら出血してしまいそうだ。
「おふろ、好き」
「良かった。頭を洗うからここに座って目を閉じて」
少女はぎゅっと目を閉じた。
私はシャンプーを泡立て、優しく少女の髪を洗った。少女の前髪は真ん中分けで、後ろは長髪。ようするに暫くの間、髪を切っていないのだ。
後で前髪だけでも切ってあげるべきだろうか。後ろも裾を揃えてあげて。
今は髪が油でしっとりとしているが、洗って毛先を揃えれば日本人形のように美しい少女になるだろう。
「もう一回、シャンプーするね」
少女はこくんっと頷いた。
シャンプーで二回洗い、リンスをし、トリートメントを付ける。
さて、次は体だ。
私はゆっくりと唾を飲み込んだ。
タオルにボディーシャンプーを沢山付けて泡立てる。
そして髪の毛を上げ、首の後ろに触れた。
「ひゃあ」
少女が小さく呟き、私はびくっと震える。
「つ、冷たかった?」
「つ、つめ……? くすぐったい」
「あはは。我慢して」
「我慢……がまん」
少女はふるっと体を震えさせ、両肩を両手でクロスして抱いた。
「痛くしないから。優しくするから」
「優しく……やさしく」
少女は手を肩から離し、膝へ置いた。
彼女は『我慢』という単語に敏感なようだ。今まで何度我慢を強いられてきたのだろうか。
この言葉を使わないように気を付けよう。
私は少女の少し汚れた背中を、そっと擦った。泡が小さな背中に広がっていく。

 

■ 続く

明日は文学フリマがあるのでお休みします。

文学フリマでこの小説のチラシを配る予定です。