少女の背中を洗いながら細かい傷があることに私は気付いた。タバコで焼かれたような傷もある。刃物で切られたような傷もある。
まさに少女はこの傷を付けられている時に、大声を発したかったのではないだろうか。そしてそれを大人達が「我慢しろ」と言ったのではないか。
小さな背中。身長は140センチぐらいだろうか。十五歳にしては小さすぎる。
「ゆきちゃん、生理、きたことある?」
「せいり?」
「股の、おしっこする所の近くから血が沢山流れたことある?」
「ある。おじさんにいじわるされると、たまにある」
「うーん、いじわるされない時にも流れる血なんだけど」
「ない」
「そっか。まだ生理が来てないのかな? 生理が来ると、女の子は子供が産めるんだよ」
「こども? まだうめない。せいり、きてない」
私は後ろから少女を優しく抱いた。
「ゆきちゃんの体、大切にしようね」
「たいせつ」
「大切にする。私はゆきちゃんのこと、大切にするよ」
「まつりは大切にしてくれる」
そう少女は繰り返すと、そっと私の腕に触れてくれた。
「ママもね、たまにこうやってだっこしてくれた。でもおじさんといるときはちがう。おじさんにいじわるされても、わらってみているだけ。おじさんといると、ママはかわっちゃう」
「ママにもおじさんは痛いことしてた。例えば……タバコの火を押しつけるとか」
「……うん。ママはやめてっていってた。おじさんはわらってた」
愛人に暴力を振るわれる母娘。本当にそのおじさんとやらは少女の母親を愛していたのだろうか。ただの憂さ晴らしだったのではないだろうか。
いや、そもそも私も少女を愛して……いや、愛と呼べるように接することが出来るのだろうか。少女を愛するという事は、彼女の人生を背負うことだ。ただペットを飼うように拾うのではなく、彼女に教育する機会を与えたり出来るだろうか。
細い少女の腕を私は泡を沢山立てて洗った。
どのくらいまともな食事をしていないのだろうか。服の上からでは分からなかったが、少女の腕は棒のように痩せていた。

続く